農業の六次産業化について考える
地方が置かれている現状
私が住んでいる秋田県は、農業県として全国的に有名な訳ですが、米を含めた出荷高よりも、実は他県から農畜産物を購入している金額の方が大きいという現実があります。誘致企業を中心にした製造業は生産拠点の海外シフトに伴い衰退し、商業・サービス業も、所得や人口の減少、大手資本の進出により経営難に陥る所が増えてきました。要するに地元でお金が回っていないだけではなく、県外にどんどん流出しているのです。これに対し、自治体も助成金を付けたり、啓蒙のためのセミナーや商談会を開催したりしていますが、「やっただけ」で終わり、将来につながっていないのが現状ではないでしょうか。
大山町農協の成功事例
大分県日田市大山町には、年収1億円以上の農家がたくさんあるようです。羨ましい限りですよね。では何故こんなに収入が多いのか。農産物を収穫し、それをそのまま流通させるのではなく、それを加工し、販売するという一連の流れが出来ているからです。農産物は加工されることで付加価値(利益)を増します。さらにこれを直販することで流通マージンをカットし、消費者に受け入れられやすい価格で提供することが可能になります。これが「農業の六次産業化」です。
農業、水産業は、第一次産業に分類されます。しかし六次産業は、農畜産物、水産物の生産だけでなく、第二次産業である「食品加工」や、第三次産業である「流通・販売」にも農林水産従事者が主体的に関わり、今まで第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を自ら得て、農業と地域を活性化させようする活動をいいます。具体的には、農業商品のブランド化、農家レストランの経営、産直ショップの運営など。基本的に【1+2+3=6】という考え方ですが、【1×2×3=6】という考え方もあるようです。(コーディネイト・マッチングについて)
では、具体的に「大山町農協」では何をやっているか。色々情報を辿ってみると、大山プロフェッショナル農業集団を結成し、土づくりからスタートしたようです。そこには大きな意識改革があったのではないかと思います。例えばイチゴを育てて収穫、それを一番美味しい時期にジャムに加工して販売します。地元で収穫したハーブや野菜は、パンに練り込んで、焼きたてパンとして町外ターゲットで販売します。さらに地元食材で作った多くの料理を、農家レストランでバイキングスタイルで提供します。オーガニック料理食べ放題となると、集客力も高いですよね。このお店で成功し、二号店を大分市中心部に、三号店は福岡市博多に作ったようです。この動きは間違いなく観光集客にもつながります。雇用への貢献も大きく、利益は組合員に分配されるため、おばちゃんの給与も手取で30万円近くになるそうです。収入が上がれば後継者問題も間違いなくクリア出来ると思います。農業者の収入が上がれば、商店街で買い物をし、それが銀行を経由し他の産業にも伝播します。これが農業を中心にした経済循環システムであり、地方経済活性化に確実につながります。(大山町農協 木の花ガルテン)
問題点を考える
しかし、同じような取り組みをしていても、うまくいっていない事例も散見されます。では何故うまくいかないのかを考えてみたいと思います。
まず一つが事業主体の問題です。主体者が自治体になってしまっていること。事業の推進には多くの予算がかかるので、自治体の協力は欠かせませんが、当の本人のやる気が無いと始まりません。「大山町農協」の成功事例の裏には、当事者の揺るぎない「意識改革」があったと思います。また成果物で物事を考えられると、間違いなく「やっただけ」の事業で終わってしまいます。商品を作っただけ、ポスターを作っただけなど。これはプロダクトアウトの考えにもつながります。モノの売れない昨今では、消費者を見ていない商品は売れません。弊社でも、このような商品のホームページ制作を、補助金の委託事業で請けたことがあるのですが、さすがに大きな成果を上げることは出来ませんでした。マーケットインに基づいた、事前のリサーチは必須です。年度で事業が切られたり、予算が無ければ実行出来ないというのも問題です。事業の推進に長期ビジョンは欠かせません。
昨今のフォーラムに出席すると、大体マッチングの場も開設されているのですが、そこに来ているのは中央のバイヤー。本末転倒というか、何か違和感すら感じてしまいます。コーディネートしなければならないのは、縦の商流ではないでしょうか。この段階で無理に横に広げても無駄だと思います。
今、何が必要か
意識改革
現在、食による町おこしに取り組んでいますが、共通して感じるのがこの「意識改革」です。経済が縮小していく中で、このままではいけないと思う「危機感」こそが重要です。そして、全ステークホルダーが利益を享受できる環境を構築すること。これが出来なければ、事業の継続が出来ません。
消費者を意識する
ただ作っただけの、消費者を意識していない商品は売れません。アンテナショップがあれば、消費者ニーズを吸い上げることが出来ます。アンテナショップが無くても、インターネット・SNSで情報収集するだけでトレンドは掴めると思います。
エリア内を縦につなぐ
食材を加工してから販売するまでの流れを、自前で対応出来ないのであれば、地域内の業者とコラボレーションをすべきです。これを県外業者に依頼してしまっては、地域経済活性化の意味が無くなります。
商業・サービス業を六次産業化出来るか?
「意識改革」、「エリア内を縦につなぐ」は、企業であれば3C分析のCompany(自社)から導き出されるものです。「消費者を意識する」は、そのままComsumer(消費者)です。商品開発も同様ですが、六次化に当たっても分析は必須ということです。
現在商業・サービス業がリーダーシップを取った六次産業化を試験的に行なっています。10月7日に、ある商品の販売開始を予定しておりますが、機会がございましたらまたここでレポートしたいと思っております。